The 25th Jellicle

クレイジー・フォー・ユー『舞台美術セミナー』

2010年9月17日(金) マチネ 京都劇場

役者さんたちが一切関与しないイベントなため、当日のキャスト表は割愛します。



劇場スタッフさんに紹介されて、美術スーパーバイザーの土屋茂昭さんが登壇。
まずは、『CFY』という作品について。

そして、いよいよ舞台美術セミナーの本編へ。
「舞台監督の指示無くして、舞台転換は出来ない」ってことで、ここからは舞台監督の木村謙介さんが加わって進行。

スタッフの人数は、舞台スタッフが13人、照明スタッフが4人、音響スタッフが3人とのこと。
女性が多いそうです。
ちなみに、客席の上手後方が照明ブース。客席の下手後方が音響ブースだそうです。

NYザングラー劇場

まずは背景幕の説明から。 背景幕は、1枚の幕に遠近法を使って描き込んでいるとのこと。一目瞭然ですね。
そして土屋さんは、ザングラーさんが客席に向かって挨拶する位置に立ち、「こういう方向で立つと、客席に向かって立っているように見えます」と。
余談ですが、地明かり(作業灯)で見ると、思ってた以上に色彩豊かに結構描き込まれてて、全然印象が違いました。
本番では、少々暗いし、袖パネルであまり見えませんからねぇ。

「遠近法で描かれているため、ザングラー劇場の舞台間口は実際の舞台の半分くらいしかありません。なので当然、ザングラー劇場の緞帳の幅も半分程度です(大意)」ってことで、その半分程度の幅しかないザングラー劇場の緞帳を実際に上げ下げ。(あ、順番的には「上げ下げ」じゃなくて「下げ上げ」か)
袖パネルがない状態、かつ地明かりで上げ下げされると、ちょっと変な感じ……。(苦笑)

続いて天井より袖パネルが下りてきました。
4枚からなる袖パネルには、それぞれ針(と言っても針より随分太いですが)のようなものが付いてました。
針が床に刺さって、それを軸に回転させると、幕開きの場面の状態になるわけです。
……というより、本番でハリー役者さん演じる舞台監督が1枚のパネルに畳むことが出来るのは、この針の軸があるからってことですね。
この袖パネルも紗幕で出来てました。

背景幕に描かれているライトが、地明かりでは全然光ってないのに、本番の照明では光って見える不思議。
この種明かしは、トランスルーセント効果。
描かれているライトの部分は紗幕になっていて、この背景幕のさらに後ろ、ホリゾント幕を照らすことで、その明かりが紗幕から透けて見えてるということでした。
ちなみに、この場面では小道具でスタンド式の照明が数台使われてますが、これらはあくまで"小道具"であって、本当の照明機器としては機能してないそうです。

NYザングラー劇場表通り

電飾に見える背景幕は、黒い幕を切り抜いているとのこと。
裏には紗幕が付けてあり、やはりトランスルーセント効果で電飾に見えるようになっているのだそうです。
ホリゾント幕を明るく照らすことで、間接光となり、むらなく光らせることが出来るのだとか。
……が、しかし、そのむらなく光るはずの電飾に、いくつか妙に明るくなってる部分があり、土屋さんが木村さんに向かって「なんで?」と指摘。
お2人で幕に近づいて確認したところ、裏の紗幕が綻んでいたようです。(苦笑)

デッドロックの大通り

まずは背景幕のみの状態。つまり『Shall We Dance ?』の場面と同じ状態。
[この場面での背景幕 = ホリゾント幕]なようです。

続いて出て来たのが遠見。
遠くに見える採掘(?)工場や牧場や牛が描かれいてる、あのセットのことです。
遠近法ということで、「手前に立てば遠くにあるように見えるけど……、奥に立つと(立った人は)ウルトラマンになっちゃいます」と、遠見の後ろに立つ土屋さん。
当たり前だし、分かりきってることですが、実際に遠見の後ろに立たれると、かなりシュールです。(笑)
この遠見もそうですが、音のどこでセットを出す(動かす)のかは決まっていて、舞台監督がキューを出すとのこと。

そして、カスタスの店、ガイエティ劇場、ランクの店も出て来て、お馴染みのデッドロックの大通りの状態に。
地明かりと、本番での照明との違いを見せてくれました。全然印象が違う!
「照明の効果は大きいんですよ(大意)」と土屋さん。納得です。
それから、「上手のセットの消失点と、下手のセットの消失点はズレている」と仰ってました。
でも、それが意図してなのか(だとすれば何故なのか)、意図せずそうなったのかの説明はありませんでした。うぅむ。

初演時、土屋さんはこのセットがさびれたように見えるように、傷の入り方や色味を指示されたそうです。

ランクの酒場

ここでの説明は、バックステージツアーでお聞きした話とかぶってましたが、今回はセットを実際に動かしている様子が見れて、目からウロコでした。
やはり話を聞いて頭では分かっていても、実際に見るのとでは大違いですから。
まさに百聞は一見に如かずですね。

ほぼ全てが人力で動かす『CFY』のセットの中で、唯一電動なのが、この酒場セットのスイングドアがある部分。
(酒場の場面では鈍角に開いてて、デッドロックの大通りの場面では鋭角に折り畳んである)
オルガンと階段の間にある麻袋(?)みたいなモノをどけて、油圧シャフトを見せてくれました。
Σおぉ、そんな風に隠されていたのか!
で、実際に折り畳む様子も見せてくれたんですが、ここで個人的な謎が解決しました。
ピート役者さんがベランダに移動するのに、階段の踊り場辺りにハシゴを立て掛けて上ってたのは、セットの隙間から見えるので分かってました。
でも、「階段の踊り場とベランダの位置って離れてるよな? ハシゴを上ってもベランダに移動するのはかなり難しい……ってか、危ないのでは?」と、ずっと思ってたんです。
ところが、折り畳まれると、階段の踊り場とベランダの位置って、かなりピッタリと近づくんですね!
アレだけ近ければ、踊り場にハシゴを立て掛けてベランダに移動出来るのも納得です。
あぁ、スッキリした!

「このセットは、大きくて袖中に入りきらないので、二つに分割して収納します」ってことで、実際に分割。
コレも実際に様子を見るとすごい! フロントとその横のドアの間で真っ二つ!

次に、セットを裏に回転させると、「なんとホテルの部屋はコレだけしかないんですねぇ。こんなに狭かったんですねぇ。しかもボビーとザングラーの部屋は繋がっているという」と土屋さん。(笑)
折り畳み式だというこの足場も、つっかえ棒をはずして実際に折り畳み。
いとも簡単にパタンと折り畳まれました。
ホントに収納名人なセットで良く出来てます。

「本番でもトタン板が登場しますが(カスタスの店の屋根の修理や『I Got Rhythm』で使うトタン板のことかな?)、このセット自体もトタン板で出来てます」と。
あ、そう言えばそうですね。(今更)

お次はランクの鳩時計について。
鳩が「ポッポー」と出るのも、時計が壊れるのも人力。
裏からスタッフが棒で突ついて、鳩を出したり、前面の板を突つき落として時計を壊したり。
セットを斜めに回転させ、フロント横のドアを開けた状態で、鳩時計とその裏側と両方の様子が見える状態で実演してくれました。
こうやって見ると、とても分かりやすいです。
壊れた時計を直すのは、外れた板をはめるだけなので、簡単に直っちゃいました。
鳩時計の操作は音でタイミングを合わすとのこと。

劇場の舞台裏(楽屋)

ここは紗幕の説明のみ。
『Tonight's The Night』や『Finale』で使われている幕のことです。
幕の奥を暗くして幕の手前を明るくすると、幕に描かれた絵が見えて、幕の手前より幕の中を明るくすると、中が透けて見えるようになってます。
ただし、絵が濃い色だと手前を明るくしても、中が透けて見えてしまうので、そういう時は中に黒幕を部分的に使うことがあるそうです。

衣装

セットについての説明が終わり、続いて一部の衣装と共に衣装スタッフさんが登場。
『CFY』の衣装スタッフは1人だけとのこと。
衣装アイテムは300ほどあり、スタイルとしては200あるそうです。
これらを衣装スタッフさんはお1人で管理なさってるんですね。大変だ……。
また、靴は、四季以外の劇団や舞台カンパニーでは、舞台監督さんが担当するそうですが、四季では衣装スタッフさんの担当なのだそうです。

ポリーの水色のワンピース、赤のワンピース、白のドレスは、裾が全円(ピルエットすると円に広がる)に作られているとのこと。
水色のワンピースを着た女性スタッフさんが登場され、土屋さんに「はい、ピルエット!」と言われてクルクルと回られると、スカートが綺麗に広がりました。

国内で用意出来ない衣装は、アメリカの衣装会社で作成。
フォーリーズの衣装は、アップリケではなくパッチワークということで、かなり技術が必要なため、1着で60万円くらいするとのこと。Σ高ぇ!
でも、BWの初演時は総額で2億円くらいかかったそうなので、それを思えば四季はリーズナブルな方ですね。

デザイン様式はアールデコ。
1930年代の定番だったとか。
インディアンっぽい柄なんかもアールデコに相当し、例えばテスの白いワンピースの襟のデザインがそうらしいです。
そういえば、ちょっとインディアンっぽいですね。
建築物だとエンパイアステートビルのデザインもそうらしいです。

普段は衣装のメンテナンスをしてる衣装スタッフさん、本番中はボビーの衣装の早替えを手伝っているそうです。
(もちろん、取れてしまったボタンをつけ直すなど、本番中にもメンテナンス作業をすることもあるワケですが)
ちなみに最も短時間な早替えは、ボビーがザングラーの変装からボビーに戻る場面の約40秒とのこと。
そりゃあ、ボビー役者さん1人では到底無理ですよね。

かつら

最後に、一部のかつらと共に床山さんが登場。
(かつらは、パッツィー(@ピンクチュチュ)、ベッツィー、スージー、ザングラーさんのもの)
『CFY』では床山も1人だけ。
床山さんはメイク指導もなさっているそうです。

かつらは全部で27枚。(かつらを数える単位は「枚」とのこと)
女性用が24枚、ボビーとザングラーさんのものが3枚。

女性は全員がかつらを使用。
時代性を反映したヘアスタイルで、特に前髪や後ろ髪のパーマが重要なのだとか。

乱れた髪をセットし直したり、毎日のメンテナンスはもちろんのことながら、2週間に1回はシャンプーをして、パーマを巻き直しているそうです。

本番中は、衣装スタッフさんと同じく、役者さんたちの衣装の早替えを手伝っているとのこと。

舞台上見学

説明が全て終了したので、今度はグループごとに舞台上を見学。
舞台上は「デッドロックの大通り」の状態で、[上手に展示されたかつら]→[カスタスの店]→[ホリゾント幕 & 遠見]→[ガイエティ劇場]→[下手に展示された衣装]というコース順。
ミニバックステージツアーみたいな感じです。

かつらの見学中、隣にいたお客さんから「公演期間中にキャストが変わることがありますが、役者さん1人に1枚ずつといった風に、かつらは同じものが何枚もあるんですか?(大意)」と、床山さんに質問が。
同じものを何枚か用意しているものがあるが、基本的には同じ役の人同士で共用とのこと。
キャス変がある度に、シャンプーして、その役者さんに合うようにセットし直したり、パーマを巻き直すそうです。
キャス変が起きると、定期メンテナンスとは別にメンテナンスが必要となり、床山さんの仕事が増えるんですね。(笑)

バックステージツアーで見落とした、カスタスの店で売られているタマゴのお値段をチェック。
「Large:13 ¢ / Medium:11 ¢ / Small:9 ¢」
ランクの店のメニューの中には「HAM EGGS:10 ¢」とあるので、1個あたりの値段では無いようです。
でもタマゴって、当時はそこそこ高価な食べ物だったんでしょうね。

ガイエティ劇場の左側のドアノブのネジが取れてました。
ネジが取れてるのに、ドアノブはどうやってドアにくっ付いてんでしょうか。(謎)

ランクの店の前にある痰壷と椅子が、何故か針金でくくり付けられてました。
何でくくり付けておく必要があるんだろう?

衣装を近くで観察。
確かにアップリケではなく、パッチワークでした。
コレは縫製が大変だー。
ベルト通しは、布地と同じ色の糸を何本取りかで編んだ紐状のものでした。

見学後は、下手袖中に入って、網元、下手袖奥、小道具が置かれている通路、ロビーを通って、客席へ戻りました。
あくまで退出のための通路だったので、立ち止まることは出来ませんでしたが、バックステージツアーで拝見した場所を再び通ることが出来て嬉しかったです。

質問コーナー

他のグループの見学中、客席では質問コーナーが同時進行。
客席から自由に質問すると、土屋さんや木村さんが答えて下さいました。

質問は私が耳に出来た限りで、順不同です。

Q:『Shall We Dance ?』での流れ星はどうやってるんですか?
軌跡になるガイドラインの紐があって、ライトを点けて流して、途中でライトを消す。

Q:ボビーは本当に音がするほどに殴られてるんですか?(大意)
殴られる音はボビーが出している。
殴られるフリをしながら、ボビーが手で音を出す。

Q:アイリーンの紋付のガウンの紋は決められているんですか?
特に指定はされていない。たまたまあの紋なだけ。

Q:公演地が変わるごとに、スタッフさんも一緒に移動するんですか?
全国公演だと、スタッフも一緒に移動する。
常設劇場での公演だと、移動する人、しない人が居る。

Q:座席の列が、A列が無くてB列から始まっているのは何故?
A列を潰して、舞台をその分前に出して作ってあるから。
舞台の先端から客席までは、避難通路確保のため、最低1mは空けなくてはならない。
(「今度上演予定の『エビータ』は、もっと座席を潰して作られた舞台になってます。観てみて下さい」と、宣伝アリ)

Q:舞台の1番手前、床に書かれてる番号の意味は?
役者さんの立ち位置の目印とか、単なる目安。
(ちなみに、こんなにデカく書く必要は無いのに、何故か『CFY』は他演目に比べて字がデカいとのこと)


以上で舞台美術セミナーは終了。
繰り返しになりますが、バックステージツアーで話に聞いていたセットの分割や収納が、実際に目にすることが出来たのは、大きな収穫でした。(嬉)
普段は見ることの出来ない舞台転換が見れるのは、本当にイベントならではですね。
改めて「バックステージツアーと舞台美術セミナー、両方に参加出来て良かったなぁ」と。

えー、あとは「CFY裏設定セミナー」なんてイベントがあったら、是非とも参加したいです。
是非っ、是非っ、是非……っ!(ボビー憑依)
そんなイベントするわけないか……。(苦笑)



以上、お読み頂きありがとうございました。

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